2018年9月18日
省エネ基礎講座
エネルギー管理組織の作り方~省エネは組織づくりから~
企業の省エネの鍵となる「エネルギー管理組織」について詳しく説明しています。
「電気代を削減したい」
「省エネに取り組んでいきたい」
そうお考えの経営者の方や担当者の方は多くいらっしゃると思います。
しかし「まず何から始めればいいかわからない」
という方も多いのではないでしょうか?
省エネに取り組んでいく上で、まず取り組むべき事は「組織づくり」です。
企業全体で省エネに取り組む際、社内全員に省エネの意識を浸透させる事が最も重要です。その為にも、まずは各部門の担当者を決め、意識を浸透させる組織作りを行います。
このページでは、省エネの為の組織作りの方法について、詳しく解説して行きます。
省エネは企業に大きな利益をもたらす
「省エネの為の組織作り」こう聞くと面倒なイメージを持たれる方も多いかと思います。
しかし、省エネが企業にもたらす利益は非常に大きなものになります。
まずは具体的なメリットを知ることで、省エネの価値を確認してみましょう。
売上と省エネの経常利益比較
経常利益3%の企業が年間1億円の売上を伸ばした時、経常利益増は次のようになります。
【参考資料:中小製造業・民生部門での経常利益率】
業種名 | 経常利益率 |
---|---|
食料品製造業 | 3.30% |
印刷・同関連業 | 3.30% |
プラスチック製品製造業 | 2.60% |
金属製品製造業 | 4.80% |
電子部品・デバイス・電子回路製造業 | 3.70% |
旅館・ホテル | 3.70% |
一般病院 | 4.90% |
介護老人福祉施設 | 5.60% |
出典:TKC全国会「TKC経営指針(要約版)
では同様に、省エネで年間300万円削減した場合にはどうなるでしょうか。
つまり省エネによるコスト削減は、そのまま経常利益の増になります。
300万円分の省エネは、1億円の売上増と同じ収益を上げる経常利益があるのです。
【余談】省エネは売上に置き換えると伝わりやすい
余談ではありますが、御社の経常利益から逆算して省エネを売上に置き換えると、
上層部や社内に「省エネの価値」が伝わりやすいと思います。
社内での稟議書や広報資料などにもお役立てください。
省エネ対策は「運用改善」と「設備投資」の2種類で行う
省エネを実践する方法は大きく分けて「運用改善」と「設備投資」の2種類があります。
「設備投資」には当然大きな費用がかかりますが、
「運用改善」には担当者の人件費など少額で対策することができます。
1億円の売上増と300万円の省エネを比較すれば、省エネの方が競合要因なども含めて比較的コストを抑えて、経常利益を増やすことができるのです。
エネルギー管理体制の実態調査
さらに「他社はどのように取り組んでいるのか?」気になる方も多いかと思います。
一般的な企業ではエネルギー管理組織についてどのような取り組みをしているのでしょうか?見て行きましょう。
事業者単位のエネルギー管理体制
このように、約80%の企業が責任者を選任しています。
しかし、省エネの組織体制を構築しているのは約30%、各部門まで責任者を配置している企業は15%と少なくなっています。
エネルギー管理責任者を選任しても、実際に組織を作るところまでは手が届いていない、あるいは組織づくりの方法が良く分からないという企業が多いと言えます。
省エネは競合との差別化に繋がる
逆に言えば、競合他社がこうした取組みに着手できていない中、省エネによる削減を商品価格や販促費に反映する等、競合他社との差別化に繋げていくチャンスがあるとも言えます。
特定事業者のエネルギー組織体制
エネルギー管理組織を構築するメリットはお分かりいただいたかと思います。
それでは実際にどのように作って行けば良いのでしょうか?
具体例をあげて解説して行きます。
※エネルギーの組織体制は、 特定事業者 かどうかによって異なります。
それぞれの組織の例をご紹介して行きます。
特定事業者のエネルギー管理組織
それではまず、特定事業者のエネルギー管理組織について例を見て行きましょう。
資源エネルギー庁が推奨する組織編制が上記の体制です。
上図に沿って、それぞれの担当者や組織のと役割について解説して行きます。
各担当者の役割
代表者(社長等)
まず「会社全体で取り組む」ことを明示する為にも、代表者に社長を選任する事が一般的です。
エネルギー管理統括者
エネルギー管理の実質的な責任者が「エネルギー管理統括者」です。全社のエネルギー管理の管理責任を担います。
企画推進者
管理統括者の元、全社のエネルギー管理の実務を行います。エネルギーの消費状況を分析し、管理統括者と対策を協議。対策の全社への情報共有や、対策のフィードバックの取り纏めを行います。
各事業所のエネルギー管理者
各事業所の責任者として「エネルギー管理者」を選任します。企画推進者指示の元、担当する事業所への施策をメンバーに周知。また事業所の省エネの結果や現場の意見などを企画推進者にフィードバックします。
従業員
各事業所に所属している従業員は全員「エネルギー委員会」に入ります。省エネを全社員で共有し、意識を高めていく為にも組織に所属して貰います。
事業所の代表者(工場長等)
資源エネルギー庁では事業所の代表者はエネルギー委員会には所属しない体制を推奨しています。
各組織の役割
※下層から順番にご紹介します。
エネルギー委員会(各事業所)
各事業所のエネルギー管理者をリーダーとして、その事業所の全従業員で構成されます。
企画推進者から送られた施策を事業所内に浸透させ、実施して行きます。
また、現場で起こっている問題や意見などをエネルギー管理者に集約し、上層組織にフィードバックします。
エネルギー管理組織(点線部分)
エネルギー管理統括者/企画推進者/各事業所のエネルギー管理者から構成された組織です。
全社のエネルギー管理は、主にこの組織を中心に運用していきます。
各事業所への指示を企画推進者が行い、各事業所のエネルギー管理者がエネルギー委員会に浸透。浸透状況や結果、現場の声などをフィードバックし、改善を重ねます。
経営組織(役員会等)
エネルギー管理組織で運用している施策の経営判断を行う組織です。
設備の増強や購入などの決済や、省エネによる削減効果を検証します。
特定事業者のエネルギー管理組織の特徴
このように、特定事業者の場合には、国からエネルギー管理が義務付けられていることもあり、3層からなる組織に管理責任者を置いて運用します。
特定事業者の場合、使用するエネルギーが大きくなる為、省エネで得られる削減効果も大きくなります。つまり組織編制の手間をかけても費用対効果が高いと言えます。
同時に使用エネルギーが大きい組織の場合、人数や拠点も多く、削減効果も高い為、施策を全従業員に浸透させるのが難しい為、組織編制がより必要とされます。
特定事業者ではない企業のエネルギー組織体制
次に、特定事業者ではない企業の組織体制をご紹介します。
図のように、特定事業者のエネルギー組織体制に比べると専用の組織はなく、シンプルな組織体制になっています。
どちらの組織体制が最適か?
小規模事業者の場合には、新たな組織は設けずに既存の体制で省エネに取り組む方が実務的である場合があります。
仮に 特定事業者 ではない場合でも、下記の場合には 特定事業者 向けの組織体制に沿った管理体制が効果的な場合があります。
- 特定事業者でなくても規模の大きな企業
- 拠点が複数ある企業
- 小規模な管理体制では充分な成果が出なかった企業
- 省エネによる経費削減効果が大きな企業
- 細かな組織編制を行った方が効果的な風土の企業
企業風土によっては、企業ごとにさまざまな特徴があるかと思います。両例を実際に運用した場合を明確に思い浮かべて比較してみると良いでしょう。
各担当者の役割
それでは、各担当者の役割の解説に戻ります。
エネルギー管理責任者
エネルギー管理を統括する責任者です。全社のエネルギー管理の管理責任を担います。
エネルギー管理担当者
エネルギー管理の実務を担います。特定事業者向けの組織と異なり、既存組織に沿う編成の方が効果的な場合もある為、工場長などの事業所の代表者が兼任することもあります。
拠点のエネルギー管理の各リーダーに対応を周知し、フィードバックなどをまとめます。
各部門のリーダー
管理担当者の指示に従い、省エネ施策を実施します。また現場の意見のフィードバックを行います。
大規模・小規模どちらの組織が最適か
いかがでしょうか?企業規模や特定事業者かどうかによって、最適なエネルギー管理組織は異なってきます。どちらが最適な組織なのか?実際に運用して担当者の選任も頭に浮かべて考えてみてください。
省エネ組織運用の為の PDCAサイクル
ここまで、具体的な組織編制について説明してきました。
しかし組織は作って終わりではありません。有効な省エネ施策を実施していく為に「効果的な運用をする」ことが大事です。
このブロックでは、省エネに効果的な組織運用を PDCAサイクル で改善していく方法を解説して行きます。
図のように、組織体制づくりから PDCAサイクル に沿って改善を重ねて行きます。
上図の順番に沿って解説して行きます。
1.推進組織の確立
こちらは前の項目でご説明した通りです。まずはエネルギー管理に最適な組織を構築します。
2.仕様、実績の把握と分析
現在、社内でどのような設備を使用していて、エネルギーがどのように使われているか?を把握します。
- 各拠点の電気使用量
- 各拠点の空調設備の仕様と(分かれば)空調の電気使用料の詳細
- 各拠点の照明設備の仕様と(分かれば)照明の電気使用料の詳細
- 各拠点の生産設備の仕様と(分かれば)生産設備の電気使用料の詳細
- 空調設備の使用状況(入退室の頻度や開閉、不要な部屋に使用していないか等)
- 照明の使用状況(無駄な点灯をしている箇所が無いか等)
●改善箇所の明文化は難しい?
実際に使用状況を調べてみると、明白なエネルギー使用状況を見出すのが困難な箇所があり、改善が難しくなるかと思います。
明確化するとより改善箇所が明確になり、無駄なく省エネを実現できます。
その改善抽出に役立つのが「 エネルギーマネジメントシステム 」です。
(詳細は後述します)
3.Plan(計画)
●目的及び目標の設定
上記で判明した改善点を元に、どれほどの削減が可能か計算し、目標を設定します。
● 管理標準 の作成
「 管理標準 」とは、省エネを実施する為のマニュアルのようなものです。
目標達成に向けて、エネルギー使用の合理化に関する管理・計測・記録・保守点検について作成します。
特に下記のようなものを優先的に設定します。
【優先的に取り組むべき設備】
- 省エネ法の判断基準であげられている設備
- エネルギー使用比率が比較的高い設備
- 生産上重要度の高い設備
- 運用や設備構造が複雑な設備
- 操業を従業員の経験や勘に頼っている設備
【織り込むべき内容】
- 使用エネルギーを最低限に抑える為の運用・管理のポイント
- 設備管理・運用の理想の姿
- 特に重要な管理項目には、管理値や標準値を設定
- 自動制御される設備については、制御の概念と目標値を明示する
- 測定値管理シートを作成し、頻度を決めて計測し記録する
- 設備ごとの保守点検の頻度とポイント
●改善計画プログラムの作成
目標と 管理標準 を基準にして、具体的な取組内容を計画します。
4.Do(改善実施)
続いて、計画した内容を元に省エネに取り組みます。
●無駄の抽出排除
管理標準 で設定した設備を中心に、無駄になっているエネルギーを抑える活動を実施します。
●計画プログラムの実施
計画プログラムに沿って省エネ活動を実施します。
●広報・教育・訓練
エネルギー組織体制で取り決めした流れに沿って、計画プログラムの内容や目標を社内に浸透させます。研修や朝礼、冊子などで現状と目標、取組内容を共有します。
5.Check(効果検証)
実施した計画プログラムの実施状況を確認します。
特定事業者の場合には「エネルギー管理組織」でフィードバックを得ながら、企画推進者が取り纏め、管理統括者と現状把握を行います。
6.Action(見直し)
効果検証で把握した現状を元に、 管理標準 や計画プログラムを見直します。
7. PDCAサイクル を回す
続いて同様に、3~6の PDCAサイクル を繰り返し、改善を繰り返していきます。
エネルギーマネジメントシステム の重要性
ここまで組織づくりと運用について解説して来ました。
おおよその流れややるべきことはご理解いただけたのではないかと思います。
しかし実際に省エネに取り組み始めると、担当者が当たる大きな壁があります。
「エネルギーの正確な使用状況が把握できない」
「改善計画が立てにくい」
「成果が正確に把握できない」
「使用状況の把握が煩雑で人件費と時間がかかる」
「使用状況の大枠しか掴めないので原因の詳細が特定できない」
「詳しい原因が分からないまま始めるので、対策の結果を見るまで原因が分からない」
このような問題に直面することがあると思います。そうした問題を解決できるのが「 エネルギーマネジメントシステム 」です。
エネルギーマネジメントシステム とは?
それでは「 エネルギーマネジメントシステム 」とは、どのようなものなのでしょうか?
使用しているエネルギーを 見える化 できる
使用エネルギーを、時間帯や機器ごとなどで 見える化 し、数値化やグラフ化することができるようになります。
これにより、無駄に消費している箇所を明確化できるため、ターゲットを絞って改善施策に取り組むことができます。
導入コストが安い
大規模な設備を導入せずに、簡単な工事やシステム導入で導入出来る為、設備の導入よりも安いコストで省エネに貢献することができます。
エネルギーマネジメントシステム の効果
導入することでどのような効果を得られるのでしょうか?
1.省エネ改善のスピードアップ
見える化 が出来ていない状態で省エネを進めると、原因特定が手探りになります。
おおよその原因しか掴まずに運用を進めると、その施策の結果を見るまで真の結果は特定できません。
「おおよその原因を判断し、時間をかけて省エネを運用し社内にも浸透させた」
→「しかしどうやらその原因ではなかったようだ」
→「また別の原因の可能性を指定してやり直し」
といった方法で、省エネ効果を出すのに長い時間がかかります。
エネルギーマネジメントシステム を導入しておけば、予め明確な原因を特定して対策するため、こうした遠回りを避ける事ができます。
2.担当者の人件費削減
上記の省エネ効果を出すまでの時間の短縮は、長期に渡るエネルギー担当者の時間短縮にも繋がります。すなわち、担当者の長期間の人件費を削減できます。
また、エネルギーの使用状況を中央にデータ集約できるので、報告などのやりとりの時間も削減できます。
3.全社のモチベーション維持
おおよその原因で施策を進めてそれが誤りだった場合、協力してきた全社員の省エネへのモチベーションが下がってしまいます。
また明確にデータで「ここが原因である」と明示した方が、原因が公正でもある為、協力を得やすくなります。
4.データ収集作業の人件費削減
データ収集はシステムが行ってくれるため、人の手による計測やデータ収集を行う人件費が削減できます。さらにヒューマンエラーを防ぐこともできます。
このように、エネルギーマネジメントの導入により、さまざまな経費削減や、結果を出すまでのスピードアップ、従業員の意識の維持などの効果があります。
システム導入の費用対効果
システムを導入した方がコストの削減になるのかどうか?
上記の PDCAサイクル の
「2.仕様、実績の把握と分析」の段階で把握した設備状況を元に
「3.Plan(計画)」の段階で上記メリットと導入費用を比較して
費用対効果を図っておくと、より効果的な組織運用を行う事ができます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
エネルギー管理組織の体制や運用方法、そのメリットなどがお分かり頂けたのではないかと思います。
省エネには売上よりも効率よく経常利益を上げる効果があります。
その方法のひとつが「エネルギー組織の構築」なのですが、まだ導入出来ている企業は30%ほどです。
組織体制には、企業規模によって最適なものとそうでなものがあります。
適切な組織で運用していく中で、 PDCAサイクル で改善を積み重ね、省エネを実現して行きます。
また、省エネを短期に効果的に実現していく為には「 エネルギーマネジメントシステム 」の導入が効率的です。
組織構成の中で、エネルギーマネジメントの必要性や「どこまでできるのだろう?」と気になった方は、ぜひお気軽にご相談ください。